第10話 ライト独自の意匠を強調する「組石造」と補強工法

1階車寄せ「組石造」の柱(北面)
一階車寄せの平面図
「石の積木」の要素をあわせ持ったRC造

ご存じのように、ヨドコウ迎賓館は鉄筋コンクリート造(RC造)とされています。ところが、石を積み上げただけのように見える箇所がいくつかあります。最初に目につく1階車寄せの四隅に設けられた柱などがそうです。
実は、ヨドコウ迎賓館の場合、「石の積木」といった要素を持つ「組石造」と呼ばれる構造が併用されています。もちろん、単に石を積み上げただけでは崩れ落ちてしまうので、「組石造」の場合、脆さを補強する工法が必要とされます。ヨドコウ迎賓館の建設当時(大正末期)は、「組石造」の補強工法と言えば、石のブロックをダボ(短い鉄の棒)で連結して積み上げるというのが一般的でした。しかし、ヨドコウ迎賓館の場合、一部にこの工法が用いられてはいますが、他は全く異なる工法が採用されているのです。

石とコンクリートの一体化で脆さを補強

では、ヨドコウ迎賓館における「組石造」の主な補強工法とはどんなものなのでしょう。
簡単にまとめると、石を型枠代わり(本来は木板を使用)にしてコンクリートを充塡。石とコンクリートを一体化することによって脆さを補強し、石はそのまま意匠として残してあるのです。(下記参照)

工法に支えられたライト独自の意匠

ところで、この工法で「組石造」(※1)の脆さをカバーすることができたのでしょうか? これについては、震災修復工事(1995年~1998年)を通して検証されています。石の一部が脱落・破損するといった被害は受けましたが、柱などの倒壊は免れました。
そして、従来とは全く異なる補強工法を考案してまで使用したかった石材こそ、日本におけるライト建築の特徴と言われる大谷石(おおやいし)(※2)なのです。ライトは、構造の軸となる柱などにも大谷石を使用し、彼独特の幾何学的装飾模様を刻み込むことによって、独自の意匠を徹底的にアピールしたかったのではないでしょうか。

  • (※1) そせきぞう=現在の表記では『組積造』が一般的です。
  • (※2) 栃木県宇都宮市大谷町一帯で採掘され、ヨドコウ迎賓館の内外装に多用。幾何学模様の細かな彫込みが施されています。また、同じライトの作品として名高い旧帝国ホテルにも使用されています。
『組石造』の補強工法と代表箇所
●内部をコンクリート詰め

石で柱型に外周を囲み、中を空洞にしてコンクリートを流し込んでいます。

1階車寄せ四隅の柱、2階応接室入口(写真)および中央の柱など

●コンクリートと同時打ち込み

石をコンクリートと同時に打ち込んで、あらかじめ合体させた部材を組み合わせて使用しています。

3階和室ベランダ側の脚柱および庇(写真)、窓台、外壁周りなど

●ダボ(短い鉄の棒)で連結

石のブロックをダボで連結して積み上げ、さらに上下をコンクリートで固定しています。

4階バルコニー入口の柱(写真)、1階南端バルコニーの柱、2階応接室の袖壁(長椅子の両サイド)

「棚田を連想させる庇の水平ライン」
ヨドコウ迎賓館は、小高い丘の斜面に沿って、水平方向へと階段状にフロアが配置されています。そして、各層に設けられた庇の先の大谷石が、水平のラインを強調し、視覚的な安定感を高めています。
ここで、ちょっとした連想ゲーム。丘陵地の斜面に、階段状に描き出される水平のラインと言えば?
山間の地形を活用した日本の美しい田園風景「棚田」をイメージしませんか。ライトは何度も日本を訪れ、各地を回っていたと言われます。車窓から、あるいは散策の途中で「棚田」に出会い、デザインのヒントを得ていたとしても不思議ではありませんね。
迎賓館西側外観
※本稿はヨドコウ迎賓館の保存修復を監理されている(財)建築研究会の平田文孝先生のご教示をいただき淀川製鋼所が作成したものです。
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