ヨドコウ迎賓館館長が行く アメリカ東部、F.L.ライト建築を巡る旅[7]


ヨドコウ迎賓館館長 岩井 忠之

2015年10月より副館長を務め、2016年4月より現職。2017年6月にアメリカのライト作品を巡る「フランク・ロイド・ライトツアーイースト」に参加。


5日目 ~落水荘~

いよいよライトの最高傑作といわれる「落水荘」の見学です。この作品からフランク・ロイド・ライトの第二期黄金時代が始まります。

早朝の6時過ぎにホテルを出発して8時前に到着しました。
オープンが8時からなのでしばらくバスで待機して、いよいよビジターセンターに向かいます。
ビジターセンターへの道
ビジターセンターの受付です。
この奥にカフェやショップ、展示室などがあります。
ビジターセンター受付
手荷物を備え付けのロッカーに預け、3班に分かれてツアー開始。ガイドはもちろん英語ですので、ツアーナビゲーターの遠藤さんと添乗員の方に加え、参加者の中で英語の堪能な方に通訳をしていただきました。
この建物は、デパートのオーナーであるカウフマン氏の別荘として建てられました。1937年の完成ですので、ヨドコウ迎賓館が竣工した13年後になります。
この時ライトは70歳で、一時期スキャンダルで仕事が激減していましたが、この建物やツアー3日目に訪れた1939年完成のジョンソン・ワックス本社などから再び黄金時代を迎えました。
しばらく森の中を歩くと川の流れる音が聞こえ、建物が徐々に見
えてきます。
奥に建物が見えます
次の写真は手前にある橋の上から撮りました。
天気が良かったこともあり、建物の石とコンクリート、そして周辺の樹木との色のコントラストがとてもきれいでした。
川の上にバルコニーが付き出る構造になっていますが、このバルコニーが傾いてきたため、大規模な修理工事が行われて2002年に完工したそうです。
川は水量が豊富で、音も予想以上に大きく驚きました。
橋から臨む
橋を渡るとパーゴラがあり、下の道は別棟のゲストハウスへ続いています。
写真の左側に入口がありますが、やはりここも案内がなければ気付かないほど狭い作りになっています。
入口の手前にある木を避けるため、パーゴラが一ヶ所だけ湾曲して作られているのもライトらしいですね。
パーゴラ
木を避けて一ヵ所だけ湾曲している
室内に入り、リビングに上がります。リビングにある暖炉は、今まで見た中で一番大きなものでした。
左側にある赤いボールは暖炉の前まで動かして、ワインを温める時に使うようです。

暖炉の手前には岩が露出しています。
有名な話ですが、施主のカウフマン一家が、この家を建てる前にこの岩の上で遊んでいたそうで、ライトはそれをそのまま生かしてこの家を設計しました。

リビングの暖炉
暖炉手前のダイニングテーブルと椅子は、デザインが少し変わっています。
これはカウフマン夫人のこだわりで、イタリアで購入したものだそうです。
ダイニングテーブルと椅子
ダイニングとつながっているリビングは広々としていて、開放的な窓からは外の景色がきれいに見えます。
写真では少しわかりにくいかもしれませんが、窓に近づくにしたがって天井が少しずつ低くなっています。
これは、目線や意識を外に向かわせるためだそうで、岩も天井も、部屋の中にいても常に外の自然とつながるように作られています。
広々としたリビング
リビングから川に降りる階段の入口です。残念ながら降りることはできませんでした。
リビングから川に降りられます
階段下に川が見える
階段を外から見た写真です。水面までは届いていません。
階段を外から見た写真
なぜかリビングの隅には見学者用と思われる「うちわ」が置いてありました。このようなものも含め、この家でも東洋的な装飾品が多く飾られていました。

他の部屋には、ライトがカウフマン氏にプレゼントしたという歌川広重の絵がかけてありましたが、何と本物だそうです。今でも普通に飾られているのに驚きます。

リビングのうちわ
各フロアのバルコニーからはすぐ下に川が見え、川の音とともに鳥のさえずりが聞こえ蝶が舞う、自然を満喫できる環境です。
川のせせらぎを身近に感じられる
寝室の窓がおもしろい形をしていました。網戸が内側に開き、窓ガラスは外に開きます。
コーナーの真ん中に桟がないので、全開にすると、このように開放的な風景を見ることが出来ます。
寝室の窓
外装に使用されている石材が、室内にもふんだんに使われています。なんとなくヨドコウ迎賓館との類似性も感じられますね。
やはり出入口や通路・階段は狭く作られています。
階段にも石材が
子供部屋に上がるおしゃれな階段です。
周りが石材なのでまるで洞窟の中に入っていくような雰囲気です。
子ども部屋への階段
このフロアも庇は低く、アメリカの背の高い方ならすぐに頭を打ちそうです。
バルコニーには植栽があり、小さい窓は下のフロアにある浴室の明り採りになっています。
バルコニー
本館の上にあるゲストハウスです。
写真左側から通路で繋がっています。
ゲストハウスは写真でもほとんど見た事がありませんでしたので、楽しみにしていました。
ゲストハウス
ゲストハウス入口です。
通路の屋根は、片持ちの柱で支えられており、視界を遮りません。この構造もすごいですね。
ゲストハウス入口
入口から入って左側にリビングルームがあります。
本館に比べるとコンパクトですが落ち着きそうです。
リビングルーム
リビングルームから反対側を眺めます。右側が出入口です。
写真の奥がベッドルームになっていて、ここでも扉や壁で部屋を区切ることはしていません。
ベッドルームからバルコニーに出られます。
反対側、写真奥がベッドルーム
バルコニーから見ると、この建物が緑に囲まれているのがよく分かります。
左下に少し見えている石はプールのへりで、結構深いプールがありました。
バルコニー、左下はプール
見学の最後が、有名なビューポイントでした。本館に戻って、少し歩いたところにあります。
バルコニーにいる人の背丈から滝の大きさがよくわかりますね。意外にもこの時は見学者が少なく、ゆっくりと撮影ができました。
アイボリー系の庇や壁が横の広がりを強調するせいか、それほど高さを感じません。そして、自然と建物の調和がとても美しいですね。
ビューポイント
※All the Fallingwater images are used with permission of the Western Pennsylvania Conservancy.
以上で見学ツアーは終わり。
このあとはビジターセンターに戻って昼食とショッピングです。

ショップでは珍しい物を見つけました。ライトのマリオネットです。$56と少々高め・・・。

ライトのマリオネット
いかがでしたでしょうか︖落水荘は、周辺の自然と相まって本当に素晴らしい建物でした。
ヨドコウ迎賓館と通じるところも多くありましたが、落水荘の方がより開放的で自然に近いイメージでした。当館はどちらかというと石や壁に囲われたやや重厚なイメージですね。これは、環境の違いによるところが大きいと思われます。

また落水荘での見学は、写真撮影の有無、外観のみや外・内観両方の見学、食事付きなどいくつかのコースがあり、タリアセンでも同様のシステムでした。このようなことも含めて、今回のツアーはいろいろと参考になりました。

落水荘を後にしてバスでピッツバーク国際空港に移動し、次の目的地であるニューヨークに向けて約1時間30分のフライトです。

写真は、飛行機から撮影した夕日に染まるマンハッタンです。
エンパイア・ステートビルが見えています。キングコングはもちろんいませんでした(笑)

次回はいよいよ見学の最終日となります。

夕日に染まるマンハッタン
この記事は2017年12月1日にヨドコウ迎賓館のブログに掲載されたものです。
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