2回目の今回は、第2黄金時代以前の作品で近年新たに公開されるようになったものをご紹介しながら、それらの保存活用の現況について見てみたいと思います。
ブラッドリー邸(写真1)は過去にはレストランや宿屋、事務所になることもありましたが、非営利団体「ライト・イン・カンカキー」によって2010年より一般公開されています。ウィリッツ邸へと展開するプレイリー・ハウスの萌芽として重要な作品です。(※1)
(※1)ライトの建築思想のターニングポイント No.1 ブラッドリー邸 参照
近郊ではストックマン邸(1908)も、移築を経て一般公開されています。
- (※2)ライトによる量産型プレファブ住宅構想。様々なタイプの住宅を想定していた。
両隣には公開へ向けて修復中の“二戸一住宅C”4棟(写真5)と“コテージA”のリチャーズ・バンガロー(写真6)が建っています。
2015年、ミルウォーキー近郊ショーウッド(写真7)とウィスコンシン州マディソンに、ASBHの住宅が新たに「発見」され、話題になっています。
ここは2012年より、非営利団体「フランク・ロイド・ライト・トラスト」によって公開されています。
また毎年5月頃、オークパーク一帯のライト作品のいくつかを一般公開する「ライト・プラス」という大イベントを主催しています。
ホテル付きの豪華パッケージ「アルティメット・プラス」に参加すれば、加えて別の複数のライト住宅でオーナーに内部を案内して頂く機会や夕食を共にする貴重な機会も得られます。ただし、お値段は、かなり張ります(2015年は約30万円)。
かつてこの区画には、マーティン邸をはじめ、マーティンの姉夫妻が住んでいたバートン邸(写真14)、お抱え庭師のコテージ(写真15)、温室、母屋と温室をつなぐ回廊、馬車庫、庭園等によって、第1黄金時代屈指の規模のライト建築複合体が構成されていました。
しかし1950年代になって温室、馬車庫、回廊が撤去され (近郊にあったライト設計のラーキンビル(1902)の取り壊しも1950年)、分断された敷地内にアパートが建設されたことで、複合体としての全体性は霧消してしまいました。
ところが、1986年にマーティン邸が国定歴史建造物に指定されたことを契機に、この区画の歴史的・文化的重要性に対するバッファロー市民の意識が高まり始めます。1992年に非営利団体「マーティン邸復元法人」が設立されると、敷地内のアパートが撤去され、取り壊されていた温室、馬車庫、回廊、庭が復元(写真16)、かつての複合体が蘇りつつあります。
現在も、バートン邸や庭師のコテージの所有権取得と公開、ビジターセンター整備等、保存・修復活動が精力的に進められています。
かくいう私も今年20年ぶりに当地を訪ね、一度は失われていた「ライトの風景」の現前(写真17)に心を奪われました。
周辺には非公開ながらもヒース邸(写真18)、デイビッドソン邸(写真19)があり、近郊にはマーティンが妻のために建てたサマーハウス、グレイクリフ(写真20)も公開されています。
今やバッファローは、オークパークやリバーフォレストに続くライトの聖地の1つと呼べるのではないでしょうか。
余談ですが当地には、計画案であったフォンタナボートハウス(写真21)(※3)、ガソリンスタンド(写真22)(※4)、ブルースカイ墓廟(写真23)(※5)が今世紀になって「新築」されて公開され、ライトの街としてのバッファローの宣伝に一役買っています。
- (※3)オリジナルはウィスコンシン州に計画されていた。
- (※4)オリジナルはバッファローの他の場所に計画されていた。
- (※5)バッファローに計画されていたマーティン家の霊廟。
今年100周年を迎えることを契機に「グレンコー歴史協会」の呼びかけで整備が進められ、増改築されていたロス邸(写真29)とペリー邸(写真30)が当初の姿に戻され、住宅を覆い隠していた樹木が剪定されました。
ここではウォーキングツアーが開催され、先の2住宅については限定ツアーの形で内部も公開されました。
周辺にはグラスナー邸(写真33)やブリガム邸(写真34)も遺されています。
今回紹介した事例は、地元の非営利団体によって保存・維持・活用が行われているものでしたが、これらの草の根的な活動を結びつけ、保存活用に有益なサポートを提供しようとする非営利団体に「ライト建築物保存協会」があります。拙訳書『フランク・ロイド・ライト建築ガイドブック』(丸善出版, 2009)原著もサポートしています。
彼らの活動はライト作品の改修・維持にあたっての具体的アドバイスにとどまらず、オーナーたちの交流促進活動や、ホームページ上での売出し物件情報公開など、多岐にわたっています。
毎年総会に併せて企画されるツアーは、会場近郊のライト作品(通常非公開作品含む)を見学する大変貴重な機会となっています。
また今回の事例の中には、国定歴史建造物指定等による市民の意識の高まりが契機となったケースが多く見られました。
2015年1月、アメリカ国務省が10件のライト作品のユネスコ世界遺産登録申請を行いました。ライトの作品の素晴らしさ、文化的価値の高さをさらに多くの人々に気づかせる契機となることが期待されます。
前編・後編と2回にわたって、アメリカにおけるライト建築の保存活用について紹介して参りました。日本にもライト建築を含む数多くの名建築がありますが、それらの保存活用は現代における重要なテーマです。さらに有効な活用方法について、今後も探っていきたいと思います。
写真・図面・解説文/ 水上 優 氏