私は昨年8月、ヨドコウ迎賓館の設計者ライトが、母国アメリカに遺した作品を訪ねるツアーに参加しました。その体験を皆様方にシリーズでご報告いたしますので、お楽しみください。
第一回目の今号は、ライトの最高傑作とされる『落水荘』をご紹介します。『落水荘』はアメリカ東部ペンシルバニア州のベア・ランという渓谷にあります。私たち一行は、近隣の都市ピッツバーグからバスで約2時間、歩いて渓谷を分け入り、対面の瞬間を心待ちにしました。やがて木立の中に『落水荘』が出現。積年の想いが叶い、涙した人もいると聞いていましたが、その姿は自然の一部のように美しくダイナミックで、本当に感動的でした。
建築主は、当時百貨店のオーナーだったカウフマン氏。数十万坪の所有地にある狩用の山荘を建て替えるにあたり、ライトに設計を依頼しました。きっかけは、彼の子息がライトの弟子だったこと。自然愛好者の二人は、たちまち意気投合したそうです。
ところで、『落水荘』と言えば、立地が特徴的です。これについて興味深い話を伺いました。現地視察に訪れたライトが、カウフマン氏にお気に入りの場所を尋ねると、「滝の上の清流に頭を出している岩」と答えたそうです。そして、でき上がった建物は、誰もがまさかと思うものでした。なんと滝の真上に建てられ、しかもお気に入りの岩が建物の一部になるように設計されていたのです。
完成は1936年、ライトが69歳の時。ライトが『Fallingwater』と命名したこの建物は、後年、世界で最もロマンチックな住宅建築と称賛されています。
実際に訪れると、こうしたエピソードに彩られた立地はもちろん、室内も驚きの連続でした。特に印象に残ったのが、意外性に満ちた空間構成です。狭くて薄暗い玄関から階段を昇ると、そこは別世界。打って変わって広く明るいリビングルームになっています。
また、インテリアもユニーク。暖炉の前の床には岩が頭を出し、切り株のテーブルにワインが数本。その側に巨大なホオズキのような球形の容器(直径約60センチメートル)がぶらさがっていて、これはワインを燗する道具とのことでした。
2階・3階のプライベートルームやゲストルームにも案内され、別棟の食堂で昼食もいただき、約4時間、何とも居心地のいいライトの世界を堪能し、その余韻に浸りながら、次の目的地に向かいました。
写真・図面・解説者/ヨドコウ迎賓館 柴田 直義館長