No.3 びっくり仰天のライトの空間演出!『ジョンソン・ワックス本社ビル』

ヨドコウ迎賓館 館長 柴田 直義

1998年3月、ヨドコウ迎賓館の館長に就任。以来、ライト建築への知識と敬愛を深める。(2010年6月館長退任)2001年夏、建築家 遠藤 楽氏(※)主催の米国ライト建築ツアー(10日間)に参加。アメリカ東部ニューヨークから中西部シカゴにかけて、ライトの代表的作品13件を訪ねた。

  • (※) 父親の遠藤 新氏はライトの帰国後、ヨドコウ迎賓館の実建築に携わった方で、父子共にライトの弟子。

『ジョンソン・ワックス本社ビル』 (ウィスコンシン州ラシーン)の事務所内約2700㎡の大空間に林立する柱が特徴的。現在もオフィスとして大切に扱われ、会社のイメージ戦略にも活用されている
『落水荘』と共に、ライトの復活を世界にアピール

今回は、『タリアセン』の予定でしたが、前日に立ち寄った『ジョンソン・ワックス本社ビル』がとても素晴らしかったので、ご紹介したいと思います。
「ジョンソン・ワックス社」は、もともと床用ワックスのメーカーで、現在は家庭用品の製造をはじめ幅広い業務を行なっている企業です。本社ビルの設計は1936年、ライトが69歳の時。まだ学生であった社長のお嬢さんの強力な推薦で実現し、依頼を受けたライトは約2週間で図面を完成させたそうです。
同じ年には、ライトの最高傑作とされる『落水荘』が完成。それまで彼自身のスキャンダルや大恐慌のあおりを受け、国内の仕事が激減していたライトでしたが、これらの作品によって完全復活を世界にアピールしました。

ライトデザインのモニュメント(彫像)
 
ライトデザインの椅子。初めは3本足だったが、ライト自身が腰掛けてひっくり返ったため4本足に設計変更
この世のものとは思えない!?柱のデザインの美しさ
事務所棟の入口の上部。 200種類のレンガを使用、ライトの好んだチェロキーレッドとクリーム色がマッチ

『ジョンソン・ワックス本社ビル』は、住宅建築の巨匠ライトには珍しいオフィスビルですが、建設が始まるとすぐに法規上の問題が発生。柱の直径が細すぎて、当局からクレームがつきました。そこでライトは、荷重テストを一般公開し、安全基準の10倍を確保していることを立証したそうです。
そんな構造面のエピソードを思い出しながら事務所内へ入ったのですが、眼前の不思議な光景に息をのみ、理屈は吹っ飛んでしまいました。キノコのような柱が、天井に向かってニョキニョキと伸び、てっぺんはハスの葉のように丸く大きく開いて天井を構成しています。そして、ガラスチューブのトップライトから木漏れ日のように光が降り注ぎ、広大な空間全体にあふれ出ているのです。ハス池の中をもぐって空を見上げるとこんな感じだろうか…そんな事を思い浮かべながら、しばし夢見心地で美しさに見とれてしまいました。心で見ると素晴らしさが増幅されるのも、ライト建築の醍醐味と言えますね。

柱の構造のヒントはなんとサボテン!
事務所棟の駐車場、柱の形状がよくわかる

ところで、ライトはどんな技法を用いて荷重をクリアしたのでしょうか? 実はサボテンからヒントを得ていたというから驚きです。柱と柱の間は約6mで、柱の下部の直径は約23cm。円筒形の部分は空洞になっていて、金属の網が補強材として仕込まれ、メッシュ状の鉄筋コンクリートにすることで強度を高めたようです。自然の形態や構造がモチーフになっているのも、ライト建築ならではの面白さですね。

空間づくりに共通するテーマを再確認

『ジョンソン・ワックス本社ビル』の建築に当たってライトは、美しく快適な空間は、その中で働く人々の心を高揚させ、ビジネスばかりではなく、人生をより豊かにするという考え方をもとに設計したそうです。さらに、オフィスビルや住宅といったスタイル・規模の違いこそあれ、ライトの建築は心を豊かにする空間づくりがテーマになっていることを再確認しました。いよいよ次は、最終訪問地『タリアセン』。ツアーを通して実感したことや、『ヨドコウ迎賓館』での体験をもとに、ライト建築すべてに共通する思想の原点に迫ってみたいと思います。

写真・図面・解説者/ヨドコウ迎賓館 柴田 直義館長

この記事は2002年10月に発行した㈱淀川製鋼所社外PR誌「YODOKO NEWS」に掲載されたものです。
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