ヨドコウ迎賓館館長 岩井 忠之
2015年10月より副館長を務め、2016年4月より現職。2017年6月にアメリカのライト作品を巡る「フランク・ロイド・ライトツアーイースト」に参加。
また、ライトの弟子で当館の建設にも携わった遠藤新のお孫さんにあたる建築家・遠藤現さんがナビゲーター役として同行されました。
本年はライト生誕150年目となることからイベントが多く催されており、このツアーでもニューヨーク近代美術館の「ライト生誕150年記念展」が組み込まれていました。
まずは伊丹空港からツアーの集合場所である成田空港に移動しました。
ところが、成田空港周辺が天候不良のため約30分遅れで到着。乗り継ぎの時間にそれほど余裕がありませんでしたので少し焦りましたが、出国審査はスムーズに進んで無事ツアーの方々と合流。
成田空港からはアメリカン航空で、シカゴ・オヘア空港まで約12時間の長旅です。
座席に座ると隣はアメリカ人らしい女性で、片言の英語で話しかけてみると、シカゴに住んでいる方でした。
そこでシカゴでおすすめの食べ物を聞いてみると、回答は予想外の「ピザ」。後で調べてみると、具のたっぷりのった「シカゴピザ」は有名なのですね。
入国手続きに1時間以上かかり、到着ロビーに出たのは17:30過ぎでした。
ロビーに出た途端にポップコーンの香りがしました。シカゴで創業したギャレットポップコーンは日本でも一時話題になりましたね。
空港からは専用バスで約2時間30分かけてマディソンに移動しました。
マディソンは、シカゴの北西に位置するウィスコンシン州の州都で人口は約20万人。約60万人のミルウォーキーに次ぐ第二の都市だそうです。
詳しい方はご存知だと思いますが、ウィスコンシン州はライトの出身地であり、卒業こそしていませんが、ウィスコンシン大学マディソン校で若き日のライトは土木を学びました。ちなみになぜ土木科に入ったのかというと、建築科がなかったからのようです。
ライトの作品も多く残されていて、とても縁の深い都市なのです。
ホテルにチェックインした後、遠藤さんを先頭にツアーの方々と、モノナ湖畔にあるライト原設計の「モノナテラス」というコンベンションセンターを見に行きました。
既に暗くて良く見えなかったのですが、屋上が噴水のある公園になっていて、昼間はきれいな景色が見られるようです。
途中にはウィスコンシン州会議事堂があり、ライトアップされて大変きれいでした。
この後、夕食のために訪れた店が臨時休業だったため、開いていた隣の店に入りましたが、そこはなんとピザ屋。
シカゴピザを期待しましたが、残念ながら日本にあるような普通のタイプのピザでした。ただし、やはりサイズは大きめでチーズや具の量も多く、思いの外美味でした。
初日は移動で終了です。
翌日の見学は、ライトの拠点であるタリアセン・イーストからスタートです。
一夜明け、いよいよ見学開始です。
この日は「タリアセン・イースト」「ユニタリアン教会」を見学しました。
まずはスプリンググリーンの「タリアセン・イースト」です。
約800エーカー(甲子園球場約84個分)の敷地に「タリアセン(住居)」「ヒルサイド・ホームスクール(学校)」「ミッドウェイ(農業用施設)」と3つの建築群があります。
ミッドウェイはタリアセンとヒルサイド・ホームスクールの中間に位置するため、そのように呼ばれているそうです。
ビジターセンターに到着し、ここから見学ツアーがスタートしますが、あいにくの雨でした。
あまりにも広いので、ビジターセンターから2台のマイクロバスで移動です。バスの色はライトが好んだチェロキーレッドで、この色は多くの建物で使用されていました。
最初に「ヒルサイド・ホームスクール」から見学しました。
こちらには食堂・製図室・シアターなどがあり、今でも世界中から集まった建築専攻の学生たちが共同生活をしています。
向かって左の建物にはリビングとダイニングルームがあります。
まず二階のリビングルームから見学しました。
内装にも石を使っていて、造り付けのソファ等、当館との共通点を感じて嬉しくなりました。
こちらでは実際に学生の方々が製図作業をされていたので、内部を撮影することは出来ませんでした。
この建物は一段と軒が低く、樹が成長して軒に食い込んでいますが、それでもやはり切ってしまうようなことはしません。
音楽好きのライトは、このシアターでお弟子さんたちによる演奏会を頻繁に行っていたそうです。
ヒルサイドに水を供給する水車「ロミオとジュリエット」です。
八角形の塔にひし形の塔が食い込んだような形になっており、互いに支えあっている事からこのように命名されました。
このあたりは風が強いため、ライトがこの塔を建てた時に、親戚の人たちが風で倒れるかどうか賭けをしたほどだそうです。
次は「ミッドウェイ」の農業用施設で、現在も使用されています。
いくつかの石柱が残っている建物は、元々は屋根の続きで軒があり、その下には牛や馬を飼っていました。
ライトは農場で飼っていた牛や鶏でさえ、景色になじむように白ではなく茶色の品種を選んだそうです。驚くほど徹底していますね。
最後は「タリアセン」です。この頃には雨は止んでいました。
タリアセンとは、ウェールズ語で「輝く眉」という意味で、ライトは丘の頂ではなく少し下がったところに、眉毛を描くように、周囲の風景に溶け込んだ住まいを作ろうとしたそうです。屋根や壁の色が周辺の景色と調和しています。
今回のツアーで見学した他の住宅でも、低く抑えた屋根と深い軒、狭い入口や低い天井から開放感のある部屋に続く構成などが、ライト建築における共通の特徴として見受けられました。
音符をイメージしているそうで、ライトの音楽好きがここでも伺えます。
ここでライトが打ち合わせをしている写真をよく見ますが、ほとんどモノクロでしたので、クッション部分がこんなに鮮やかなブルーだったとは知りませんでした。
左側の窓の外には松が植えられており、この絵と繋がるようになっています。
ゲスト用のリビングルームでは、当館と同じような天井付近の小窓も発見。
ここからの景色はさぞ素晴らしかろうと思うのですが、現在は出られません。
こちらは家族用のリビングルームです。
部屋は壁ではなく、暖炉や作り付けの家具などで仕切られる形になっています。反対側の窓からも景色が一望できます。
ベッド脇には花鳥画が飾られていて、ライトはこの絵の上から色鉛筆で好みの色を塗っていたそうです。
奥はライトが晩年に使用していたベッドですが、かなり小さいですね。
ここでも屏風絵のような絵がベッド脇の壁に飾られています。
見学終了後はビジターセンターに戻ってカフェでランチをいただき、その後はショッピングタイムです。
ここには立派なショップがあり種類も豊富です。グッズの収益は保存のための重要な財源の一つになりますので、私も土産を数点購入してタリアセンを後にしました。
特徴的な屋根は祈る人の合掌の手を表しているのだとか。
牧師の背後は北向きで光の変化を少なく設計されており、講堂は大変明るい空間となっていました。
床は三角の組み合わせで、色はライトが好んだチェロキーレッド。
椅子の配置も祭壇を頂点にした三角形になっていて、お互いの顔が見える工夫がされています。これは、一体感を感じられるようにするためだそうです。
また、椅子は簡単に移動が可能で、スペースを多目的に使用できるようになっていました。
ライトの設計にあわせて同じように軒を低くしています。
そのため、外からでは分かりにくいのですが、地下にスペースを広く作った設計になっていました。
設計はスペインのサンティアゴ・カラトラバで、アテネオリンピックのメイン会場を設計した人だそうです。
量が多いので肉は2人ずつ、野菜料理は3種類を数人でシェアしました。肉は少々焼き過ぎでしたが、結構あっさりしていて食べやすく、野菜も美味しくて十分満足できました。中にはシェアせずにオーダーされた方もいらっしゃいましたが、皆さん無事完食されたようです。
三日目はウィスコンシン州から移動し、イリノイ州へと向かいます。