ヨドコウ迎賓館館長が行く アメリカ東部、F.L.ライト建築を巡る旅[1]


ヨドコウ迎賓館館長 岩井 忠之

2015年10月より副館長を務め、2016年4月より現職。2017年6月にアメリカのライト作品を巡る「フランク・ロイド・ライトツアーイースト」に参加。

フランク・ロイド・ライトツアーイースト
6月21日から28日までの8日間、当館の設計者で近代建築の巨匠と称されるアメリカ人建築家フランク・ロイド・ライトの作品を巡る「フランク・ロイド・ライトツアーイースト」に参加しました。参加者は28名で、やはり建築関係の方が多くいらっしゃいました。

また、ライトの弟子で当館の建設にも携わった遠藤新のお孫さんにあたる建築家・遠藤現さんがナビゲーター役として同行されました。
本年はライト生誕150年目となることからイベントが多く催されており、このツアーでもニューヨーク近代美術館の「ライト生誕150年記念展」が組み込まれていました。


初日 ~大阪からマディソンまで~

まずは伊丹空港からツアーの集合場所である成田空港に移動しました。
ところが、成田空港周辺が天候不良のため約30分遅れで到着。乗り継ぎの時間にそれほど余裕がありませんでしたので少し焦りましたが、出国審査はスムーズに進んで無事ツアーの方々と合流。
成田空港からはアメリカン航空で、シカゴ・オヘア空港まで約12時間の長旅です。
座席に座ると隣はアメリカ人らしい女性で、片言の英語で話しかけてみると、シカゴに住んでいる方でした。
そこでシカゴでおすすめの食べ物を聞いてみると、回答は予想外の「ピザ」。後で調べてみると、具のたっぷりのった「シカゴピザ」は有名なのですね。

成田空港
シカゴピザ
オヘア空港には現地時間の16:00に到着。
入国手続きに1時間以上かかり、到着ロビーに出たのは17:30過ぎでした。
ロビーに出た途端にポップコーンの香りがしました。シカゴで創業したギャレットポップコーンは日本でも一時話題になりましたね。
オヘア空港

空港からは専用バスで約2時間30分かけてマディソンに移動しました。
マディソンは、シカゴの北西に位置するウィスコンシン州の州都で人口は約20万人。約60万人のミルウォーキーに次ぐ第二の都市だそうです。
詳しい方はご存知だと思いますが、ウィスコンシン州はライトの出身地であり、卒業こそしていませんが、ウィスコンシン大学マディソン校で若き日のライトは土木を学びました。ちなみになぜ土木科に入ったのかというと、建築科がなかったからのようです。
ライトの作品も多く残されていて、とても縁の深い都市なのです。

ホテルにチェックインした後、遠藤さんを先頭にツアーの方々と、モノナ湖畔にあるライト原設計のモノナテラスというコンベンションセンターを見に行きました。
既に暗くて良く見えなかったのですが、屋上が噴水のある公園になっていて、昼間はきれいな景色が見られるようです。
途中にはウィスコンシン州会議事堂があり、ライトアップされて大変きれいでした。

モノナテラス
ウィスコンシン州会議事堂

この後、夕食のために訪れた店が臨時休業だったため、開いていた隣の店に入りましたが、そこはなんとピザ屋。
シカゴピザを期待しましたが、残念ながら日本にあるような普通のタイプのピザでした。ただし、やはりサイズは大きめでチーズや具の量も多く、思いの外美味でした。

初日は移動で終了です。
翌日の見学は、ライトの拠点であるタリアセン・イーストからスタートです。

2日目 ~タリアセン~

一夜明け、いよいよ見学開始です。
この日は「タリアセン・イースト」「ユニタリアン教会」を見学しました。

まずはスプリンググリーンの「タリアセン・イースト」です。
約800エーカー(甲子園球場約84個分)の敷地に「タリアセン(住居)」「ヒルサイド・ホームスクール(学校)」「ミッドウェイ(農業用施設)」と3つの建築群があります。
ミッドウェイはタリアセンとヒルサイド・ホームスクールの中間に位置するため、そのように呼ばれているそうです。

ビジターセンターに到着し、ここから見学ツアーがスタートしますが、あいにくの雨でした。
あまりにも広いので、ビジターセンターから2台のマイクロバスで移動です。バスの色はライトが好んだチェロキーレッドで、この色は多くの建物で使用されていました。

ビジターセンター
マイクロバス

最初に「ヒルサイド・ホームスクール」から見学しました。
こちらには食堂・製図室・シアターなどがあり、今でも世界中から集まった建築専攻の学生たちが共同生活をしています。
向かって左の建物にはリビングとダイニングルームがあります。

ヒルサイド・ホームスクール
リビング・ダイニングルーム

まず二階のリビングルームから見学しました。
内装にも石を使っていて、造り付けのソファ等、当館との共通点を感じて嬉しくなりました。

リビングルーム
リビングルーム
天井にも装飾が施されています。
天井装飾
2階のリビングからは、1階のダイニングルームを眺めることが出来る作りになっています。
1階 ダイニングルーム
向かって右の建物は製図室です。
こちらでは実際に学生の方々が製図作業をされていたので、内部を撮影することは出来ませんでした。
製図室
ここから少し下がったところに、シアターのある建物があります。
この建物は一段と軒が低く、樹が成長して軒に食い込んでいますが、それでもやはり切ってしまうようなことはしません。
音楽好きのライトは、このシアターでお弟子さんたちによる演奏会を頻繁に行っていたそうです。
シアターのある建物
軒に食い込む樹
シアター

ヒルサイドに水を供給する水車「ロミオとジュリエット」です。
八角形の塔にひし形の塔が食い込んだような形になっており、互いに支えあっている事からこのように命名されました。
このあたりは風が強いため、ライトがこの塔を建てた時に、親戚の人たちが風で倒れるかどうか賭けをしたほどだそうです。

ロミオとジュリエット
八角形の塔にひし形の塔が食い込んだような形

次は「ミッドウェイ」の農業用施設で、現在も使用されています。
いくつかの石柱が残っている建物は、元々は屋根の続きで軒があり、その下には牛や馬を飼っていました。
ライトは農場で飼っていた牛や鶏でさえ、景色になじむように白ではなく茶色の品種を選んだそうです。驚くほど徹底していますね。

ミッドウェイ
軒跡の岩柱

最後は「タリアセン」です。この頃には雨は止んでいました。
タリアセンとは、ウェールズ語で「輝く眉」という意味で、ライトは丘の頂ではなく少し下がったところに、眉毛を描くように、周囲の風景に溶け込んだ住まいを作ろうとしたそうです。屋根や壁の色が周辺の景色と調和しています。

タリアセン
タリアセン
外観は石と木を使い、低く抑えた屋根と軒に近い窓が印象的でした。
今回のツアーで見学した他の住宅でも、低く抑えた屋根と深い軒、狭い入口や低い天井から開放感のある部屋に続く構成などが、ライト建築における共通の特徴として見受けられました。
タリアセン
建物の下にある石垣のひとつです。
音符をイメージしているそうで、ライトの音楽好きがここでも伺えます。
音符をイメージした石垣
建物の中に入り、こちらはライトの仕事場です。
ここでライトが打ち合わせをしている写真をよく見ますが、ほとんどモノクロでしたので、クッション部分がこんなに鮮やかなブルーだったとは知りませんでした。
ライトの仕事場
反対側の壁には、鶴と松を描いた大きな絵が飾られています。
左側の窓の外には松が植えられており、この絵と繋がるようになっています。
鶴と松が描かれた絵
タリアセンは2度の火災に遭い、今でも屋根裏にその焼け跡が残っています。
屋根裏に残る焼け跡
館内の装飾なども素晴らしいのは勿論ですが、日本や中国の絵、観音像、壺などが思っていた以上にたくさん飾られていて、独特の雰囲気を醸し出していました。

ゲスト用のリビングルームでは、当館と同じような天井付近の小窓も発見。

ゲスト用リビングルームの小窓
部屋はかなり広くてピアノもあり、壁の2面に窓が並び、雄大な景色が一望できます。
ゲスト用リビングルーム
下の写真は、リビングルームから突き出たバルコニーです。
ここからの景色はさぞ素晴らしかろうと思うのですが、現在は出られません。
リビングルームバルコニー

こちらは家族用のリビングルームです。
部屋は壁ではなく、暖炉や作り付けの家具などで仕切られる形になっています。反対側の窓からも景色が一望できます。

家族用リビングルーム
反対側の窓
こちらはご夫婦のベッドルームです。
ベッド脇には花鳥画が飾られていて、ライトはこの絵の上から色鉛筆で好みの色を塗っていたそうです。
夫婦用ベッドルーム
ライトの自室です。
奥はライトが晩年に使用していたベッドですが、かなり小さいですね。
ここでも屏風絵のような絵がベッド脇の壁に飾られています。
ライトの自室
この部屋とゲスト用のリビングルームは一直線で繋がり、自室にはドアがありません。通路の中央辺りに出入口があります。
通路

見学終了後はビジターセンターに戻ってカフェでランチをいただき、その後はショッピングタイムです。
ここには立派なショップがあり種類も豊富です。グッズの収益は保存のための重要な財源の一つになりますので、私も土産を数点購入してタリアセンを後にしました。

カフェ
ショップ
2日目 ~ユニタリアン教会~
次に向かったのは「ユニタリアン教会(1947年竣工)」です。
特徴的な屋根は祈る人の合掌の手を表しているのだとか。
ユニタリアン教会
やはり軒は低く抑えられていて、入り口では頭を打ちそうでした(そのために地面を下げたようです)
ユニタリアン教会入口

牧師の背後は北向きで光の変化を少なく設計されており、講堂は大変明るい空間となっていました。
床は三角の組み合わせで、色はライトが好んだチェロキーレッド。
椅子の配置も祭壇を頂点にした三角形になっていて、お互いの顔が見える工夫がされています。これは、一体感を感じられるようにするためだそうです。
また、椅子は簡単に移動が可能で、スペースを多目的に使用できるようになっていました。

向かって左側に続く建物は、後に増築された教育棟です。

ライトの設計にあわせて同じように軒を低くしています。
そのため、外からでは分かりにくいのですが、地下にスペースを広く作った設計になっていました。

教育棟
以上で1日目の見学予定は終わりましたが、少し時間があったので、開館時間は終わっていましたが、ホテルに帰る途中にミシガン湖に面した変わったデザインの「ミルウォーキー美術館(2001年竣工)」に立ち寄りました。
設計はスペインのサンティアゴ・カラトラバで、アテネオリンピックのメイン会場を設計した人だそうです。
ミルウォーキー美術館
夕食は、せっかくアメリカに来たのだからと、十数人の方とご一緒にステーキを食べに行きました。
量が多いので肉は2人ずつ、野菜料理は3種類を数人でシェアしました。肉は少々焼き過ぎでしたが、結構あっさりしていて食べやすく、野菜も美味しくて十分満足できました。中にはシェアせずにオーダーされた方もいらっしゃいましたが、皆さん無事完食されたようです。
水用のグラスもアメリカンサイズでした

三日目はウィスコンシン州から移動し、イリノイ州へと向かいます。

この記事は2017年8月21日、9月8日にヨドコウ迎賓館のブログに掲載されたものです。
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