No.1 ブラッドリー邸

プレイリー・ハウスのターニング・ポイント
写真1
箱のような外観を呈す「グリッドリッチ邸(1896)」

ブラッドリー邸は、1900年、イリノイ州カンカキーに建てられたライトの初期の住宅作品です。この住宅の外観を印象づけているのはその屋根でしょう。大きな切妻屋根は家全体をゆったりと覆って生活を守り、水平に伸び広がる軒先のラインは生活がその上で営まれるところの広大な土地と響きあっているかのようです。ライトは自ら、翌年2月の雑誌論文「プレイリー・タウンの家」の中で次のように語っています。

『建物の外部はしっかりとまた広く敷地と繋げられてプレイリーの影響を承認し、その外部の穏やかな水平の特徴を作りだします。低いテラスと広がった庇はその穏やかな水平を強調し、調和した関係を完成させるためにデザインされるのです。』

発言はまさにブラッドリー邸を説明するものであると言えます。このような住宅のイメージはかれのプレイリー・ハウスを特徴づけるものですが、実はブラッドリー邸以前のライトの作品は未だ「箱」のような外観を呈していました(写真1)。すなわち、この住宅はかれの第1黄金時代における一連のプレイリー・ハウスの展開を考えるうえで、1つのターニング・ポイントとなる作品として注目されてくるのです。

プレイリー・ハウス成立における萌芽的作品

ライトは、翌年の雑誌「レディース・ホーム・ジャーナル」7月号に「大空間のある小住宅」案を発表しました。住宅案の「外観」は、まさにブラッドリー邸そのものでした。ところがおもしろいことに、その「平面図」(図2)は、ブラッドリー邸の平面図(図1)を下敷きにしつつも改変され、同年に建てられるプレイリー・ハウスの代表作、ウィリッツ邸の平面図(図3)に酷似しています。

図1「ブラッドリー邸(1900)」
平面図
図2「大空間のある小住宅案(1901)」
平面図
図3「ウィリッツ邸(1900)」
平面図

ウィリッツ邸の一番の特徴は、ヨーロッパの近代建築に大きな影響を与えたと言われるところの、流動的な空間の成立です。暖炉を中心として居間と食堂が流動的な空間として繋げられ、それぞれはまたテラスや庇の延長によって外部空間へと展開していくのです。

<ブラッドリー邸─「大空間のある小住宅」案─ウィリッツ邸>の変容において、全体的イメージから新たな内部空間が生起する、まさにプレイリー・ハウスの成立の瞬間が認められるのです。

ブラッドリー邸は、プレイリー・ハウス成立における萌芽的作品と言えるでしょう。

写真・図面・解説文 / 水上 優 氏

この記事は2006年4月に発行した㈱淀川製鋼所社外PR誌「YODOKO NEWS」に掲載されたものです。
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