No.2 エニス邸

テキスタイル・ブロック住宅
エニス邸は、1923年にカリフォルニア州ロサンゼルスに建てられた、ライトの中期の住宅作品です。この住宅の特徴は、オリジナルデザインのコンクリート・ブロックによってその全体が構成されていることでしょう。かれはこの年、カリフォルニアに合計4件のコンクリート・ブロック住宅を建てました(写真1~3)。

コンクリート・ブロックは縦横の鉄筋によって織物を織るように組み上げられるため、 「テキスタイル・ブロック住宅」とも呼ばれました。空気層を挟んだ2重構造の壁体は住宅の断熱性能を向上させ、 日差しの強いこの地方の風土に呼応しています。またこのシステムは、のちに経済性、 施工性等にも優れる「ユーソニアン・オートマティック」の提案に繋がっていきます。 しかしコンクリート・ブロック住宅のデザインの真意は、そのような経済性や機能性を超えたところにあるようです。 ライトは28年8月の雑誌論文「素材の本性──コンクリート」の中で次のように語っています。

『このコンクリートの美学的価値は、まさにプラスティシティにあると言えます。というのも、人工石であるコンクリートには偉大な美学的価値などないし、 全く独自性もないのですから。プラスティックな物質としてのコンクリートにおいて、偉大な美学的特質があるのです。その 「ブロック」は、 静かでプラスティックな全体において、単に機械的なユニットとなるのです。』

ここでライトが語る「プラスティシティ」の概念は、型枠に流し込んで自由に形成可能なコンクリートの「可塑性」を言うだけにとどまらない独自の意味を担っています。 「私は師サリヴァンのプラスティシティの概念を、全体としての建物におけるコンティニュイティの概念に進展させた」と言っているように、かれは「プラスティシティ」という概念を単なる素材の「可塑性」としてではなく、 「コンティニュイティ(連続性)」の概念をその根底に見据えたものとして捉えています。そしてさらに言えば、「連続性」の根底には「部分と全体との間の緊密な相関関係」 としての「有機的」概念が見据えられているのです。上記の引用文中でかれが「プラスティックな全体」と言っているのもこのためです。「プラスティシティ」は、 「連続性」の概念を見据えて「一体性」と解釈されるでしょう。ライトはあらゆるものをバラバラなものとして捉えることなく、本来的に、根源的に、 「1つのもの」として捉えようとします。しかしそれは「皆同じ」ということを意味するのではありません。「この特徴的な分節のなかに表現の無限の多様性が横たわっている」 と言われるように、かれは無限の多様性を求めています。一連のテキスタイル・ブロック住宅のデザインにおいて、かれは多様性を生み出す単純なシステムを模索していると言うことができるでしょう。 しかし、それはなぜでしょうか。「自然には特殊があるばかりだ。全ては限りなく似通っているけれども、 1つとして同じではない」と言われるように、かれは自然のあり方を「1から生じる多」として理解しています。つまり、かれは自然がなすように建築をなそうとしているのです。

写真1「ストーラー邸(1923)」
写真2「フリーマン邸(1923)」
写真3「ミラード邸(1923)」
「折り紙」に見るコンクリート・ブロック住宅のテーマ
写真4「オリガミ・チェア」

ライトは「タリアセン・ウエスト」の自室に、その名も「オリガミ・チェア」という椅子をデザインしています(写真4)。

折り紙は、言わずと知れた日本の文化ですが、かれはこの折り紙を大変気に入っていたようです。かれのデザインをよく見ていくと、そこここに折り紙を想起させるデザインを見出すことができます(写真5)。最晩年の「ユニテリアン・ミーティングハウス」などは、建築全体が折り紙の造形を思わせます(写真6)。

写真5「ヘイガン邸(1954)」外構
写真6「ユニテリアン・ミーティングハウス(1947)」
一見似ても似つかない「折り紙」と「コンクリート・ブロック」ですが、多様な造形を展開させながら、実は1枚の紙、連続した1枚の千代紙から作られている折り紙は、まさに「連続性」を根底に据えた「プラスティシティ(一体性)」の表れとして、コンクリート・ブロック住宅のテーマに通底しているのではないでしょうか。

写真・図面・解説文 / 水上 優 氏

この記事は2006年7月に発行した㈱淀川製鋼所社外PR誌「YODOKO NEWS」に掲載されたものです。
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