NO.1 ライトの最高傑作「落水荘」に、ヨドコウ迎賓館を連想!

『落水荘』(カウフマン邸)外観
清流が滝となって落下する場所に建てられ、渓谷の美しい自然と一体になって融和。
ヨドコウ迎賓館 館長 柴田 直義

1998年3月、ヨドコウ迎賓館の館長に就任。以来、ライト建築への知識と敬愛を深める。(2010年6月館長退任)2001年夏、建築家 遠藤 楽氏(※)主催の米国ライト建築ツアー(10日間)に参加。アメリカ東部ニューヨークから中西部シカゴにかけて、ライトの代表的作品13件を訪ねた。

  • (※) 父親の遠藤 新氏はライトの帰国後、ヨドコウ迎賓館の実建築に携わった方で、父子共にライトの弟子。

その姿は、涙した人もいるほど感動的
ツアーのメンバーと

私は昨年8月、ヨドコウ迎賓館の設計者ライトが、母国アメリカに遺した作品を訪ねるツアーに参加しました。その体験を皆様方にシリーズでご報告いたしますので、お楽しみください。
第一回目の今号は、ライトの最高傑作とされる『落水荘』をご紹介します。『落水荘』はアメリカ東部ペンシルバニア州のベア・ランという渓谷にあります。私たち一行は、近隣の都市ピッツバーグからバスで約2時間、歩いて渓谷を分け入り、対面の瞬間を心待ちにしました。やがて木立の中に『落水荘』が出現。積年の想いが叶い、涙した人もいると聞いていましたが、その姿は自然の一部のように美しくダイナミックで、本当に感動的でした。

設計にまつわるエピソード
建物の一部が岩に食い込んでいる

建築主は、当時百貨店のオーナーだったカウフマン氏。数十万坪の所有地にある狩用の山荘を建て替えるにあたり、ライトに設計を依頼しました。きっかけは、彼の子息がライトの弟子だったこと。自然愛好者の二人は、たちまち意気投合したそうです。
ところで、『落水荘』と言えば、立地が特徴的です。これについて興味深い話を伺いました。現地視察に訪れたライトが、カウフマン氏にお気に入りの場所を尋ねると、「滝の上の清流に頭を出している岩」と答えたそうです。そして、でき上がった建物は、誰もがまさかと思うものでした。なんと滝の真上に建てられ、しかもお気に入りの岩が建物の一部になるように設計されていたのです。
完成は1936年、ライトが69歳の時。ライトが『Fallingwater』と命名したこの建物は、後年、世界で最もロマンチックな住宅建築と称賛されています。

立地はもちろん、室内も驚きの連続

実際に訪れると、こうしたエピソードに彩られた立地はもちろん、室内も驚きの連続でした。特に印象に残ったのが、意外性に満ちた空間構成です。狭くて薄暗い玄関から階段を昇ると、そこは別世界。打って変わって広く明るいリビングルームになっています。
また、インテリアもユニーク。暖炉の前の床には岩が頭を出し、切り株のテーブルにワインが数本。その側に巨大なホオズキのような球形の容器(直径約60センチメートル)がぶらさがっていて、これはワインを燗する道具とのことでした。

リビングの暖炉前、清流の岩がそのままインテリアに!
ワインを燗する球形容器もユニーク
ヨドコウ迎賓館との共通点に感銘
階段壁面の本棚をはじめ、作り付けの棚が随所に
『落水荘』は期待以上の素晴らしさで、新たな感動を与えてくれました。でも実は、私が最も感銘を受けたのは、ヨドコウ迎賓館(1924年竣工)との共通点を発見できたことでした。圧巻はリビングです。狭い玄関からの経路、大きな窓と作り付けのソファー、そしてバルコニー…ヨドコウ迎賓館の3~4倍とスケールの違いこそあれ、内部と外部がひとつの空間として設計されたライト独特の世界がありました。加えて逆梁の床、さらには建物の一端が岩に食い込んでいるところなど、構造や立地にも一脈通じるものがあり、心が躍りました。
2階・3階のプライベートルームやゲストルームにも案内され、別棟の食堂で昼食もいただき、約4時間、何とも居心地のいいライトの世界を堪能し、その余韻に浸りながら、次の目的地に向かいました。
大きな窓と作り付けのソファーで、大自然の景観を満喫

写真・図面・解説者/ヨドコウ迎賓館 柴田 直義館長

この記事は2002年4月に発行した㈱淀川製鋼所社外PR誌「YODOKO NEWS」に掲載されたものです。
上部へスクロール