No.4 ツアーのフィナーレ『タリアセン』で、「有機的建築」への思いを新たに!

ヨドコウ迎賓館 館長 柴田 直義

1998年3月、ヨドコウ迎賓館の館長に就任。以来、ライト建築への知識と敬愛を深める。(2010年6月館長退任)2001年夏、建築家 遠藤 楽氏(※)主催の米国ライト建築ツアー(10日間)に参加。アメリカ東部ニューヨークから中西部シカゴにかけて、ライトの代表的作品13件を訪ねた。

  • (※) 父親の遠藤 新氏はライトの帰国後、ヨドコウ迎賓館の実建築に携わった方で、父子共にライトの弟子。

丘の中腹に建つ『タリアセン』 (ウェールズ語で「輝ける額」の意味)大自然に抱かれたライト建築の聖地、「有機的建築」のホームグラウンド
『ウィスコンシン州にあるイーストを訪問

今号では、ツアーの最終訪問先『タリアセン』をご紹介します。『タリアセン』はイースト(ウィスコンシン州)とウエスト(アリゾナ州)の2箇所ありますが、私達が訪れたのはイーストです。1911年、ライトはシカゴからスプリング・グリーンに本拠地を移し、彼の母方の一族が所有していた丘陵地に自邸兼設計事務所を建て、『タリアセン』と名付けました。

ライト建築の聖地で、日本の美術品に遭遇
現在、敷地は800エーカー(約96万坪)にも及び、タリアセン(住居)、ヒルサイド(ホームスクール)、ミッドウェイ(農業用施設)の3つの建築群から構成されています。
私達はまず、ヒルサイドから見学をスタートしました。ここは、ライトが「タリアセン・フェローシップ」という学校を創設(1932年)した場所です。ライトに師事する学生達は、建築の勉強はもちろん、敷地内の農地で作物を育てたり食事を作ったり、言わば自給自足的な共同生活を営み、「有機的建築」を体感しました。そしてライト亡き今も、その精神は脈々と受け継がれ、学生及び財団スタッフ総勢70~80人が住み込みで学び、実際に建築設計を行なっています。

ライトが標榜した「有機的建築」の継承者達が暮らし、ツアーで大勢の見学者が訪れる『タリアセン』は、まさにライト建築の聖地なのです。さらに、私にとって興味津々だったのは、ライトの住居に飾られていた日本の美術品でした。ライトは明治末期から大正年間にかけて何度か来日し、浮世絵のコレクターとして有名ですが、他にも国宝級の屏風や仏像なども収集していたようです。その素晴らしさに目がクギ付けになりました。

ヒルサイド(ホームスクール)の製図室
ミッドウェイ(農業用施設)
敷地内にある自家発電用の小さなダム
浮世絵が飾られているライトの部屋
ゲストルームには国宝級の屏風が!
(狩野派の老松図屏風六曲一隻)
「有機的建築」の原点は、「自然から学ぶ」という精神

ところで、今回『タリアセン』を訪れ、思いを新たにしたことがあります。一般的に「有機的建築」は、「あたかも大地から生えたような」といった具合に、土地と建物が一体化した形状から説明されがちです。でも、その原点は「自然から学ぶ」という精神そのものだと感じました。だからこそ学生達にも、農作業を通して自然の偉大さを体感させたと言えます。(※2) ライト自身、「自然界に存在するものは、生きるために必要な部分だけでできており、建築するというのは自然から教えられたものを大自然の中に返す行為なのだ」とも語っていたそうです。「有機的建築」とは、自然をお手本とし、自然と共存する建築であり、さらに内装(家具や照明)に至るまですべて、建物全体にとって必要不可欠となるよう設計された建築と言えるのではないでしょうか。

  • (※2) 遠藤 楽氏の『ツアー テキスト』より抜粋要約
米国で、そして日本で… ぜひライト作品のご見学を!
この手記でご紹介した作品以外にも、米国にはライトの代表的建築がたくさんあります。また、日本にも『ヨドコウ迎賓館』が遺されています。ぜひご自身の目と心で、ライトの世界を味わってみてください。
最後に、ツアー主催者であり、旅行中いろいろご教示いただいた遠藤 楽氏、元工学院大教授南追氏、トラベルプラン八田社長に感謝すると共に、ゲストとしておもてなしくださった訪問先の皆様にお礼を申し上げ、ツアー報告最終回とさせていただきます。ご愛読ありがとうございました。
ライト設計『ヨドコウ迎賓館』
国の重要文化財に指定されている

写真・図面・解説者/ヨドコウ迎賓館 柴田 直義館長

この記事は2003年1月に発行した㈱淀川製鋼所社外PR誌「YODOKO NEWS」に掲載されたものです。
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