ヨドコウ迎賓館では、2月16日(土)(※1)から「雛人形」の展示公開が始まります。そこで今号では、ご来館の折、じっくりご覧いただきたい箇所をピックアップしてご紹介したいと思います。
その前に、当館の来歴を簡単にご説明しましょう。ヨドコウ迎賓館は、灘(神戸)の酒造家である山邑家の別邸として大正12年から13年にかけて兵庫県芦屋川沿いの丘の上に建設されました。昭和22年にヨドコウが購入。昭和49年、貴重なライト建築を後世に遺すため、国の重要文化財に指定されました。そして現在、迎賓館前の道路は「ライト坂」と呼ばれ、周辺のシンボルとして親しまれています。
- (※1)2002年度の情報です。
この坂を登り、建物の外観を鑑賞しながら、敷地内南端の玄関へどうぞ。お着きになったらまずは吹き抜けの開口部=車寄せに立って南側バルコニーのほうを眺めてください。眼前の景色がスッと切り取られ、鮮やかに目に飛び込んできます。周囲の壁や柱が額縁の役割を果たし、風景画を見ているようなひとときが過ごせますよ。このように、外部の自然を巧みに取り込んだ空間構成は、ライト建築の醍醐味です。
さらに、玄関車寄せ付近は、洞察力や想像力を働かせて、「心で見る」と素晴らしさが増幅される箇所とも言えます。例えば、建物全体の大きさの割に間口の狭い玄関口は、茶室特有の小さな出入口=にじり口を連想させます。また、玄関先にある石の水盤にちょろちょろと水が湧き出す光景を思い描くと、茶室前の手水鉢にも見えてくるから不思議ですね。こうした和の趣向は、日本の伝統的建築からヒントを得たのかもしれません。
では、館内をご案内しましょう。玄関を入って階段を2階に上がると、応接室があります。ここではしばし、東西両側の大きな窓に映し出された美しい景観をお楽しみください。窓の真下には作り付けの長椅子を配置。ゆったり観賞してもらいたいという、おもてなしの心が伝わってきます。
ところで、応接室の壁面には飾り棚や置き台がたくさんしつらえてあります。他にも館内には花瓶などを飾るのにぴったりの箇所が随所に。室内を装飾することによって生活の潤いを演出し、心豊かに暮らしてほしいというライトの声が聞こえてきそうですね。
ところで、この階に居るとき、「確か3階まで上がったのに、地面から遠く離れている感じがしない…」と思われるはず。実はこの建物は、斜面に沿って水平方向へと階段状にフロアが配置されているので、すべての棟が1階または2階建ての様相になっているのです。自然の地形を活かし、土地と建物の一体化を目指したライトならではの設計を実感してください。
最上階の4階は和の趣きから一転。洋風そのもののたたずまいです。食堂は特に装飾性が色濃く、どこかしら宗教的な雰囲気さえ漂っています。欧米において食堂は儀式の場でもあり、これにならって厳粛な気持ちになるようにつくられているそうです。食堂を出ると、そこは広々としたバルコニー。自然の景観をご馳走に、ガーデン・パーティーが催されたことでしょう。また、文献によると当時(大正末期)、奥の厨房には欧米製の高価な電気製品がズラリと揃っていたとか。でも、残念なことにほとんど現存していません。
いかがでしょう。ヨドコウ迎賓館の見どころをチェックしていただけましたでしょうか。それでは皆様方、ぜひご来館のうえ、雛人形共々ゆっくりとご鑑賞ください。お待ちしております。
さらに、大谷石と並ぶ代表的装飾と言えるのが、ドアや窓などに多用されている「飾り銅板」です。そして、これらに施されている模様のモチーフは、なんと!周辺に群生する自然の植物。しかも、一つ一つの模様をよく見てみると、多種多彩に思える装飾も、四角形や三角形をベースとして、幾何学的な模様へとアレンジされているのがわかります。まさにライトは「造形のマジシャン」ですよね。
- (※2)大谷石は栃木県宇都宮市大谷町一帯で採掘され、同じライト作品として名高い旧帝国ホテルにも使用されています。