物や空間を心で見るとは?
ライトは常に自然をテーマとし、土地と建物の一体化や周辺環境との融和を目指したといわれます。こうした視点でヨドコウ迎賓館の外観を見てみると、丘の稜線を損なわず、自然の傾斜に沿って建っているのがわかります。あたかも大地を這う岩のごとく…。さらに、山手の高台ならではの眺望の良さを生かし、館内でも自然を主役にドラマチックな空間構成がされているのにお気づきでしょうか。いったいどこに、どんなシーンが? 探し当てる秘訣は、心で見ること。つまり、洞察力や想像力を働かせ、ライトの設計意図を感じ取ることが大切です。
眼前の景色を絵画のように鑑賞
何気なく通り過ぎるとわからないけれど、心で見ると素晴らしさが増幅される場所。それが玄関前にある吹き抜けの車寄せです。ここに立ってバルコニーの方を眺めると、眼前の景色がスッと切り取られ、鮮やかに目に飛び込んできます。周囲の壁や柱が額縁の役割を果たし、風景画を観賞しているような心豊かなひとときが過ごせます。そういえば、日本の寺院などにも類似の演出があります。壁の一部をくり抜いて、庭の景色を垣間見せるというもの。ライトが発想のヒントにしたかどうかはわかりませんが、外部の自然を巧みに取り込んだ空間構成に魅了されます。
外の景観もインテリアの一つに
一方、もっとオーソドックスに美しい景観をそのまま楽しめるのが、バルコニーや2階応接室です。ただし、応接室の場合、東西両側の窓辺がチェックポイント。ハメ殺しの大きな窓の真下に、作りつけの長椅子を配置。まるで外の景観さえも、室内のインテリアとして予め組み込まれている感じがします。お客様にゆったりとくつろいでいただくための配慮、おもてなしの心を形にした表現といえるのではないでしょうか。
話題のスポット探検『暮らしに潤いを与える岩清水の風情』
夏になるとお目見えする軒先のすだれや風鈴は、住まいに涼を呼び、暮らしに潤いを与える工夫として親しまれています。ヨドコウ迎賓館の玄関先にも、目にすがすがしく心が洗われるようなスポットがあります。壁にはめ込まれた石柱から、ちょろちょろと水が涌き出て、石をくりぬいた小さな窪みに注ぎ込み、岩清水の風情を漂わせているのです。さらにイメージを膨らませると、茶室の前に置かれた手水鉢(ちょうずばち)の雰囲気さえしてきます。すると、建物全体の大きさの割に間口の狭い玄関口が茶室特有の小さな出入口=にじり口を連想させるから不思議ですね。
※本稿はヨドコウ迎賓館の保存修復を監理されている(財)建築研究会の平田文孝先生のご教示をいただき淀川製鋼所が作成したものです。