第4話 種や仕掛けに納得。ライトは造形のマジシャン!

造形のモチーフとは?
ライトは自然を規範とし、自然に溶け込んだ建築を理想としたといわれます。この哲学は、ヨドコウ迎賓館の設計はもちろん、装飾においても見事に表現されています。とはいっても、装飾の素晴らしさや多さに気をとられ、何を表現してあるのか見逃してしまうことも…。そこで、造形のマジシャンであるライトがモチーフにした物とは?多用した理由とは?種明かしをし、仕掛けを楽しんでみたいと思います。
車寄せの大谷石の彫込みデザイン
周辺に群生する自然の植物を抽象化
ヨドコウ迎賓館には、建物の外壁をはじめ、室内の柱やインテリアに至るまで細かな装飾が施されています。なんとこれらは、周辺の樹木や草花などを抽象化したとか。つまり、自然の形態が造形のモチーフになっているのです。その代表例が、葉をモチーフにした飾り銅板。ドアや窓・鴨居の上の欄間(らんま)など随所に使われています。形だけでなく色も自然のグリーンに近づけるため、わざわざ銅に緑青(ろくしょう)と呼ばれるサビを発生させたとか。また、採光の必要な場所では銅板のデザインに透かしを取り入れ、葉の隙間から射し込む木漏れ日のような効果を演出しています。
葉をモチーフにした飾り銅板
壁面の飾り窓
鴨居の上の欄間
木漏れ日を演出
暖炉の両脇の大谷石
幾何学的な模様へと巧みにアレンジ

ライトは終生、定規とコンパスを手から離さなかったそうです。そこから生み出される造形が、驚くほどバラエティ豊かであったことは、ヨドコウ迎賓館に遺された装飾の数々が物語っています。しかし、一つ一つの模様をよく見てみると、意外な事実に気づきます。多種多彩に思える装飾も、実は四角形や三角形といったシンプルな形がベースとなっているのです。そして、一定のルールにより、幾何学的な模様へと巧みにアレンジされているのがわかります。同時に、パターンを繰り返すことで、自然のリズムを刻み込もうとしていたのではないでしょうか。

天井からの飾り支柱
凝った装飾の食堂
幾何学的な模様
端正なデザイン
『日本の雨量を甘くみた?ライトの誤算』
本来は通風孔(2階応接室) 湿度の高い日本では、建物の中にも湿気がこもりがち。これをカバーするため、ヨドコウ迎賓館にはたくさんの通風孔が設けられています。しかも、端正な装飾になっているのがライトならでは。とてもユニークな雰囲気を醸し出し、無味乾燥に陥りがちな壁面を生気あるものへと変身させています。でも、ライトのオリジナルとはちょっと変わってきている点があります。実は2階応接室の通風孔らしきもの、当初は網戸が入っていたとか。今では、湿気より雨対策を優先してガラスがはめ込まれ、明かり取りとして活用しています。梅雨や秋の長雨、台風などの雨量がライトの想像を上回ったといえそうです。
本来は通風孔(2階応接室)
※本稿はヨドコウ迎賓館の保存修復を監理されている(財)建築研究会の平田文孝先生のご教示をいただき淀川製鋼所が作成したものです。
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