国指定重要文化財・ヨドコウ迎賓館には、至る所に作り付けの家具があります。ライトは室内設計に当たって、物入れ・棚などはもちろん、長椅子までも作り付けにし、統一感のある端正な空間構成を目指しました。しかも、一見何の変哲もなく、装飾にこだわったライトらしくないとさえ思える家具のデザインや配置の仕方にも、彼特有のインテリア観が表現されているとか。その無言のメッセージに迫ってみたいと思います。
ヨドコウ迎賓館の家具には、マホガニーという外国産の木材が多用されています。ライトが、杉・松・ヒノキといった日本の木材ではなく、マホガニーを好んだのはなぜだったのでしょう?
最大の理由は、木目が目立たないこと。杉・松・ヒノキのはっきりとした木目は、ライトにとって独自の装飾効果を損なうものに映ったようです。もうひとつ、フラッシュドアと呼ばれる1枚板の扉を作るにあたり、日本の木材の場合は規格化され、思いのままに寸法採りできなかったこともネックになりました。
では、どうしてライトは1枚板にこだわったのでしょう? それは機能性や見た目の変化を優先して加工された合板(板を何枚か張り合わせたもの)にはない、天然木ならではの重厚な趣きや樹木本来の自然な素材感を室内に取り入れたかったからではないでしょうか。
ところで、日本では作り付けの家具というと、クローゼットに代表されるように、一般的な用途は収納です。一方ライトは、物をしまっておくだけではなく、物を飾るためのスペースを設けることに積極的でした。
その典型といえるのが応接室です。物入れの上部空間を活用した飾り棚がたくさんあります。そして、木材に限らず石材も花瓶などの置き台になるように配置されています。実はライト自身、手近に自分のお気に入りの骨董品や浮世絵を飾って、作品のイメージモチーフにしたり、発想のヒントを得ていたとか。こうした視点でヨドコウ迎賓館を見てみると、花瓶をはじめツボや照明器具などを置くのにぴったりの箇所が、随所にしつらえてあるのに気づきます。室内を装飾することによって生活の潤いを演出し、心豊かに暮らしてほしいというライトの声が聞こえてきそうです。
ライトのデザイン思想を活かしたオリジナル家具
迎賓館前の道路の愛称が「ライト坂」と決定
その名も『ライト坂』。ヨドコウ迎賓館の設計者であるライトに敬意を表したものとなっています。